「ヨーロッパ型資本主義」を読んで

ruiikumi2009-08-19

 市場原理主義の行き詰まりや不条理が叫ばれて久しい。「格差社会」を生み出した身勝手なアメリカ型身勝手資本主義やそれに追随した日本型輸出企業優先政策への批判がようやく日本でも強くなりました。

 今回の総選挙も政治の体制選択であると同時に、経済のあり方を問う選挙です。一部の輸出型大企業の経営者のためだけの経済政策なのか、そうではないのか。そのあたりを問う体制選択でもあります。

 「ヨーロッパ型資本主義」(福島清彦・著・講談社現代新書・2002年刊)を知人に借りて読みました。筆者はアメリカに7年、英国に3年滞在されていました。欧米のなかで生活し、「外から日本を見る」視点があるようです。

 2002年ごろと言えば、ブッシュ大統領時代であり、アメリカ1人勝ち時代。「9・11テロ」の報復でアフガンやイラク攻撃を仕掛けるアメリカに対し欧州諸国は英国を除き追随しませんでした。独自の社会観、経済観があったと筆者は指摘します。

「9月11日のテロ攻撃を貧者の富者に対する絶望的な怒りと受け止め、貧富の格差をさらに拡大してしまういまの国際経済制度を改革しようという一つの提案である。

  中略

 地中海沿岸のイスラム教諸国とEUの経済協力を強化し、イスラム諸国の経済発展を促す「ユーロ・地中海パートナーシップ」について、なにもしないで放置しておくことはできない。イスラム諸国との協力だけでなく、EU委員会にグローバル化を規制する広範な権限を与えるべきである。」{中略)

 これに対し米国の国際経済政策は依然として、途上国に経済の自由化を要求し、市場原理主義を貫徹すれば事態は改善するはずだというもので、基本的には市場原理主義に従っている。米国の市場原理主義的な思想に基づいて国際経済ルールが決まられている以上、途上国の人々はさらに貧しくなり、怒りがつのるばかりである。」

「米国と西側の同盟国は、非民主的で、不安定で、貧困になった中東諸国で燃えさかる宗教的な狂信と、領土紛争も、暴力による欲求不満の発現によって,痛い目にあわされるであろう」(P226)

 まさに「9・11」以降の展開は2002年に福島氏の予測し懸念した事態に推移しました。解決策としてアメリカ型の市場原理主義ではなく、欧州型の資本主義ではないかと言っています。

 「欧州の国民国家の内部で18世紀から19世紀初めに起きたような民主主義と自由と社会的正義を求める運動を、いまはグローバルな規模で再生させなかればならない。」(P228)

「1920年代、日本の資本主義は株主の経営支配力がきわめて強い、いわば原初の英米型資本主義に近いものだったが、1930年代に戦時統制と同時並行する形で「従業員を組織体としての企業の正規メンバーとして位置づけた。」

「この従業員参加の経営方式は戦後も継承・発展し、さらに企業別労組、年2回の賞与制度、いわゆる終身雇用、年功序列制度が50年代から、60年代に広範に普及していった。
 こうした諸制度が主力銀行を通じた長期的な資金供給とあいまって、労使ともに企業の成長を志向し、生産性と勤勉度の高い独自の日本型資本主義を70年代までに形成したのである。
 これがドイツの社会的市場経済やフランスのエリート官僚主導型混合経済、あるいはイギリスの{1979年サッチャー政権成立以前の)福祉重視資本主義に匹敵する、戦後の日本型資本主義の原型であろう。
 
 80年代から90年代初めにかけて、戦後の日本型資本主義は優れたモデルとしてもてはやされ、「日本は資本主義を超えた」とする見解も出現した。
 しかしながら、その日本型資本主義が情報革命と世界経済が統合が進行する時代には、多くの欠陥を露呈し、改革が必要となっている。」(P232)

 小泉「構造改革」の真っ最中にこの著作は世に出たのである。その先見性には関心します。筆者はこうも書いています。

「日本でも、明治末期から多くの社会改革が行われてきたが、社会思想家が自ら政策を企画・実行することはなかった。官僚統制の時期が長かったことへの反発とアメリカ思想の影響から、むしろ日本では、市場原理主義を礼賛し、政府の力を弱めることが改革論の底流にあるようである。

 だが市場は万能ではなく、多くの限界を持っている。市場の限界と政府の役割をヨーロッパから学ぶことが、日本の改革には必要であろう。」(P236)

 そして福島氏は処方箋として次の事柄を挙げています。

1・成長幻想の克服(P2369

2・公共工事からの脱出(P238)

3・自信を持って消費できる社会環境づくり(P240)

4・環境保全と地下空間の創出(P241)

5.知恵ある政府に(P242)

 今は総選挙のたけなわ。8月30日の投票の結果どのような政府ができるのでしょうか?アメリカ追随型の市場原理主義優先政策は、日本社会を「格差社会」にしただけでした。

 この著作のように長い社会的伝統で独自の欧州型資本主義を形成してきたヨーロッパ諸国の「経験」を検証することが、日本にとっても必要であると思いました。